日本経済新聞(2002.2.19)



生き残りかけVB出資

 関西の大学が新産業育成に挑もうとしている。教員や学生が興した大学発ベンチャー企業(VB)に出資する試みが広まっているほか、大学の研究成果や技術をベンチャー・中小企業に移転して実用化を目指す動きも目立ってきた。少子化による経営環境悪化に直面している大学にとって、新産業育成への取り組みは生き残り戦略でもある。

教職員が資金
 十六日午後、南海高野線の中百舌鳥駅近くにある堺商工会議所(大阪府堺市)で起業家プランオーディションが開かれた。発表者五人のなかに、昨年十一月に創業したばかりのダブル・ワークス(同)の難波美都里社長がいた。主力事業である学術団体の会費徴収代行サービスについて、個人投資家やベンチャーキャピタルの投資担当者など百人を前に熱弁をふるった。
 難波社長ら四人のメンバーは大阪府立大阪女子大学(堺市)大学院の卒業生。「大阪女子大学SOHOサポートファンド」が第一号案件として二百五十万円を出資した。投資基金(ファンド)の創設や運営に大学当局は関与していないが、教職員二十三人と同窓会が「卒業生や在校生によるベンチャーに出資したい」と資金を出した。
 学術団体の事務局に営業に行くと「大学が応援しているなら安心して取り引きできる」との声も多く、同社にとって大学の看板効果は大きい。難波社長は「サービスの利便性を研究者にうまく伝えて、着実に利益を生む会社にしたい」と意欲をみせる。
 私立大学の中には、自校から生まれたベンチャーに直接出資する学校もある。大阪産業大学(大阪府大東市)は、教員や学生が設立したベンチャー三社に計八百九十万円を出資した。「企業の熱意を持った教員や学生の支援は、当校の教育方針である実学重視にもかなう」(武内清利・産業研究所次長)。

学費依存を脱却
 出資先の一つであるオーエスユー・デジタルメディアファクトリー(大東市)は大学院生の山崎功詔社長が率い、ライブハウスで活動する独立系アーティストのCDなどを制作している。「株式上場は難しいが、利益の一部を大学に寄付したい」(山崎社長)。資本金三百万円のうち百万円を大学が出資しており、指導教官で取締役も兼ねる高増明教授は「会社が成長すれば大学の知名度も上がり、生徒獲得にも貢献する」と期待する。
 大学としてベンチャーに資金面での支援はできないか−。立命館大学(京都市)は昨年十二月に専門委員会を設け、びわこ・くさつキャンパス(滋賀県草津市)から大学発ベンチャーを輩出する方策を練っている。事務局を担当する三並高志・産学交流事業推進室課長補佐は、学内の合意を得ることが前提としながらも「学費に依存した大学の収入構造を変えるためにも、ベンチャー投資を前向きに考えたい」と語る。
 日本経済新聞社が昨年十一月−十二月に全国の大学を対象に実施した調査では、回答した近畿二府四県の大学六十一校のうち十校がファンドの設立を検討していた。その背景には、教授や学生の間で起業への関心が高まり、大学として何らかの対応策が求められていることが挙げられる。出資を通じて自校の存在価値を社会にアピールし、少子化による学生獲得難を乗り切る狙いもある。

経営方針は放任
 ただ、大学がベンチャーに投資後、成長を促すような動きはまだほとんどみられない。「大学や教職員から経営方針を指図されたことはない」(ダブル・ワークスの難波社長)。大産大は四半期ごとに経営状況を各社に報告させているが、経営方針は事実上放任している。
 大学関係者は収益追求の意識が低いとはいえ、投資した以上は生まれたばかりの企業を育てる姿勢が必要。ベンチャーが大学の看板を営業に利用しているのであればなおさらだ。各大学が出資者として投資先の成功も失敗も受け止め、ベンチャー投資の運用実績やノウハウを地道に積み重ねる努力が求められる。