日本経済新聞(2003.4.30)




輝く女性に
パワー全開、大学発ベンチャー 経営に研究に「大変だれど やりがいがある」

「大学院生と社長の二足のわらじ」「アルバイトから社長に転身」――。
大学初のベンチャー企業(VB)が相次いで誕生している関西にあって、こんな経歴を持つ元気な女性が目立ち始めた。
大学の研究者はまだ男性が多数派だけに、逆にその存在はひときわ輝く。苦労もあれば成功もあり、涙や笑いもあるその姿を追った。

「社長に」の打診
即答「やりたい」

 コンピュータグラフィック(CG)関連の受託研究を手掛けるオーエスユーロテクノロジー(大阪府大東市)。
社長の大橋江利架さんは、大阪産業大学の大学院に在籍する「学生兼社長」として全国の高校に配布するパンフレットにも大きく紹介されている。
 2001年春、大学からの働き掛けを受けてVB創出を考えていた前川佳徳教授は、出資企業の意向もあって研究室の女子学生数人に絞って社長就任を打診した。
唯一「やりたい」と即答したのが、当時工学部の四年生だった大橋さん。「好奇心が旺盛でやりたがりの性格。これはチャンスだと思って引き受けた」
 講演会でのスピーチなど対外的な仕事が大橋さんの主な役割だ。営業、人事、資金繰りなど
経営全般を指揮する一般的なVB経営者と比べると、その役割はかなり異なっている。それでも学業との両立は容易ではない。
 01年九月の会社設立と同時に社長に就任したが「卒業旅行にもいけず、
付き合いが悪いといわれたこともある。就職に有利だからと中途半端な気持ちで引き受けていたら、とても務まらなかった」。
 九月からは米国の大学で研究員としてCGの研究に専念する予定だ。「会社の顔として社長の肩書きは持っていってもらう」と前川教授。
帰国後は同社から分離独立し、新たな事業を起こすことも考えている。
 大阪女子大の教授や職員がつくったファンドの出資を受けて01年十一月に設立されたダブル・ワークス(大阪府堺市)。
同社の難波美都里社長は、女性四人だけの会社を率いる文字通りの社長だ。事業内容は大学からの委託を受けてのパンフレット作製など。
大学での事務のアルバイトをしていた難波さんが大学関係者の協力を得て会社を設立し、自ら社長に就任した。
 同社は大学や学会の様々な事務代行サービスも手掛けている。大阪女子大の卒業生を
「お仕事ネットワーク」として組織化し、四人で出来ない部分は他の女性の力を借りて仕事を進めている。
 VBを経営するうえで「女性ということで不利益を被った経験はない」と難波さん。
むしろ「女性の方が初対面でも話を聞いてくれ、気軽に仕事を頼んでもらえる」とメリットを実感している。
 週休二日で一日に十ー十二時間労働というから、労働時間は大企業の総合職の女性並み。それに対して収入は「娘と二人で暮らすには困らない水準ながら、
総合職の女性に比べれば少ない」と難波さんは明かす。それでも「最初から最後まで自分たちで全部できる面白みを知った今となっては勤め人には戻れない」と笑う。
 
営業もこなす 時には「苦痛」も

 一方、研究者という立場から大学発VBにかかわる女性の中にも元気な人たちが目立つ。そんな1人が、バイオ系VBである
プロテインクリスタル(大阪市)に勤務する池田敬子主任研究員だ。
 同社は蚕に寄生するウィルスが作り出す多角体という角張った物質に着目し、これを医薬品開発に役立てようとしている。森肇・京都工芸繊維大学助教授の研究質に
所属している池田さんが、森助教授との共同研究の中で、VB設立のきっかけとなる発見をしたのだ。
 多角体を使った事業を本格的に立ち上げるため、池田さんは研究の企画にとどまらず、企業に出向いての営業活動もこなす。
 そんな営業の中では、女性研究者という存在が一般的にはまだ珍しいのか「女性だからと特別視されて苦痛なときもある」。研究だけに没頭しているのとは違った
苦労もあるようだ。
 大阪発VBで活躍する女性たち。三人からは共通する意見が聞かれた。それは「大変だけどやりがいがある」だった。
                                       (大阪経済部 鹿毛秀彦)