朝日新聞(2003.7.10)




[なにわ職もよう]企画会社社長 難波美都里さん(51)

 難波美都里さんが社長を務める会社は、大阪女子大の校舎内の間口が2mほどの一室にある=堺市大仙町で
 大学が手がける出版物やインターネットのホームページの作成を代行する有限会社「ダブル・ワークス」を01年7月に設立した。
 
 同大教官の顔写真や談話をふんだんに盛り込んだ作成した大学案内冊子が校風が伝わりやすいと評判になり、他大学からもパンフレットや機関誌の作成を頼まれるようになった。女性4人が府立大阪女子大(堺市大仙町)内の約12平方メートルの一室を間借りして運営する会社は、就職難の時代の女性による「起業」モデルとして注目されている。
 東京育ち。都内の都市銀行に就職、オンラインシステムの企画設計を担当した。同僚だった夫との結婚を機に退社。その後、夫の転勤で大阪に移り住んだが、88年、当時40歳の夫をがんで亡くした。小学1年だった長女を転校させるのが可哀想になり、そのまま大阪に残った。
 家に閉じこもっていては良くない、という周囲の勧めで、翌年4月に大阪女子大の聴講生になった。編入して同大の学生になり、大学院まで計8年間、社会学を学んだ。
 教官から「大学の生徒募集用のパンフレットを改善できないか」と相談されたのが、会社設立のきっかけだった。大学院仲間らと相談するうちに、みんなのやる気に火をつけ、話がどんどん具体化していった。資本金は300万円。うち250万円は、同大の教職員有志がお金を出しあって卒業生の起業を支援している「大阪女子大学SOHOサポートファンド」から出資を受けた。
 仕事の幅は広がり、いまは府南部の18大学でつくる「南大阪地域大学コンソーシアム(連合)」の事務局業務や、学会運営も担う。800万円が目標だったが年商も今期は達する見込みだ。
 仕事の依頼が引きも切らない理由を「学生に任せるとアカデミック・ハラスメント(研究妨害や嫌がらせ)とみなされるケースが生じてきた」「大学の法人化など変革が進む中で、新しい需要に即応して提案もできるサービスが求められている」と分析する。
 大学院を修了して取締役になった友村さおりさん(28)は「この人のそばにいたら面白いかも、と他人をひきつける吸引力が難波さんにはある」と話す。難波さんは「20歳代でも起業できる力は十分ある。ただ、若さを周囲が認めてくれない場合があり、私の年齢を利用してもらっています」と言う。
 ホームページで、同大の卒業生向けに求人情報の提供サービスも始めた。会社設立の体験を生かし、ゆくゆくは、起業を目指す女性に助言をしたいと思っている。

●起業への後押し
 府は01年度に「創業促進税制」をスタート。今年度までに資本金1千万円以下で設立した会社の法人事業税を5年間、業種に応じて10〜50%減額している。同制度の対象法人が01年度に約7千社設立され、黒字になった約3千社が同制度の適用を受けた。府中小企業支援センターは起業の内容により、最高400万円を無償で助成する「テイクオフ大阪21事業」を実施中。さらに今年、資本金1円(従来の最低資本金は株式会社1千万円、有限会社300万円)でも会社を設立できる「中小企業挑戦支援法」が施行され、起業のチャンスは広がっている。