日本養液栽培研究会 | Hydroponic Society of Japan

園芸学会平成19年度春季大会(京都)シンポジウム
「東アジアにおけるイチゴ生産と研究の動向と展望」
「日本におけるイチゴ高設栽培に関する研究動向
(吉田裕一氏,岡山大学)」について

通信員 イチゴや(宮城県)

ここでは,イチゴ高設栽培に関する講演について,簡単に紹介する。講演者の吉田先生は「らくちんシステム」の生みの親の一人であり,イチゴ研究の第一人者である。「らくちんシステム」の開発以降,多くの県の試験場でイチゴ高設栽培システムの開発が進められたが,普及面積では「らくちんシステム」が57.4haでもっとも多く,ついで長崎県方式,大分県方式と続く。講演では,まず,国内におけるイチゴ高設栽培についての歴史や変遷について,また普及状況について紹介された。イチゴ高設栽培の導入面積が最も多いのは静岡(58.2ha)で次いで香川,福岡,大分,愛知,長崎,熊本と続いている。大産地よりも,早くから独自の高設栽培システムの開発に取り組んだ県で普及面積が多いことが特徴である。全国ベースでみると,実質的な普及率は15%程度と推察されるとしている。

講演では主な高設栽培システムの特徴にふれながら,システムの分類について述べている。栽培ベッドの形状,培地の容積,養分供給方法(基肥,培養液1液混合,2液混合)や給液制御方法などの異なる様々な方式が存在している。それぞれのメリット,デメリットについて考察をした。吉田氏は「らくちん」の開発者であることから,「らくちん」のやりかたがもっとも優れているといった論調で,最初から最後まで講演が進められている。

最近話題性は少なくなったが,これまでに国内の多くの試験場がイチゴの高設栽培の開発に取りくんできた。吉田氏の結論も,「些末な独自性にこだわって装置システムが中途半端に多様してしまっており,低コスト化,生産性の高位平準化とそのための栽培マニュアルの整備など,現在必要な課題を迅速に対応するための妨げとなっている」としている。一部を除いてあまり普及しなかったことも事実であり,公立試験場の無駄な研究の典型的な例として引き合いに出されることも多い。イチゴの品種も各県一品種の時代を迎えている。それだけ,イチゴは地域,産地の販売戦略上重要な品目となっていることだろう。他の品目にはない魅力,魔力がイチゴにはあるのだろうか。

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