日本養液栽培研究会 | Hydroponic Society of Japan

「有機養液栽培」の栽培試験レポート

通信員 新門 剛(宮崎県東臼杵郡門川町)

この栽培方法を知ったのは、平成17年秋の日本農業新聞の記事でした。そのときの感想は、「種菌として養液の中に土や堆肥を入れると、ピシウム菌や青枯れ菌が入り根部の病害にさらされ、安定的な栽培は無理だろう。」というものでした。

しかしその数ヶ月後、別件で武豊の野菜茶業研究所を訪れた際、「有機養液栽培」の開発者である篠原信さんから直接その栽培風景を見せてもらい、また栽培についての詳細を教えていただく機会を得ました。この時「根部の病害を引き起こす菌は根の周りに出来るバクテリアの膜にシャットアウトされる。」とのお話にこの栽培方法のすごさを感じ試験栽培してみたいと思いました。

実際に試験を始めたのは平成18年の12月でした。窒素源としては菜種油粕を選択しました。安価で保存性に優れている点を重視しました。欠点として微粉末化しないと分解され難いところや脱膣菌が発生しやすいところがあるとのことでしたが、篠原さんに「菜種油粕用の「種水」を送っていただきそれを段階的に500リットルまで増やして栽培開始しました。はじめた頃の水温が低すぎて(最低10~15℃)、「水作り」に2ヶ月近くを費やしました。トマトの1段栽培で使用している発泡枠を使い内径30cm長さ4mの栽培槽2本を作り、作物はトマトとクレソンでスタートしました。栽培様式はDFTでタンクの水は循環しエアレーションはしませんでした。水温は20~27℃で推移しました。

定植直後より順調に根が伸びて茎葉の伸長も順調でしたが、トマトは1段花房開花前にマンガン欠乏症が出て成長点が黄変してしまいました。篠原さんに相談してミネラル源として添加するカキ殻石灰をマンガンが多く含まれる商品「粒状セルカ」に切り替えたところトマトの葉色がもどり、腋芽を伸ばして新しい成長点とし、それから再び順調に生育しました。クレソンは定植直後より旺盛に生育し食味も良くこの栽培方法・窒素源・時季に適していることが確認できました。

その後トマトは5月後半まで栽培しました。5~6段まで着果し収量は少なめでしたが果形・食味はよく、栽培試験1回目としてはまずまずの成果が得られました。栽培終盤はクレソンとトマトの根量が多くなり過ぎタンクからの水を注ぎ込む場所でたびたび水があふれ、長期にわたる栽培では栽培槽の形状に工夫が必要だと感じました。5月になると水温は常に25℃以上ありましたが根の状態は若くて病害は見当たらなかったです。

今回、栽培槽の一部にネギとホウレンソウも植えてみました。ネギは順調に生育しましたがホウレンソウは全く生育しませんでした。

今後は、窒素源を「鰹煮汁」に変更し引き続きトマトとクレソンの栽培を試みたいと思っています。

この「有機養液栽培」は環境負荷もなく根部の病害の心配からも開放されるというすばらしい利点を備えた栽培方法ですから、多くの研究者・農家の方々が試験栽培に取り組んでいただきたいと思います。窒素源×栽培様式×作物の組み合わせはかなり多いと思いますが、その中には現行の栽培方法の成績を遥かにしのぐパターンが必ずやいくつもあると思います。

たとえば10年後、日本の実際の経営の中で何ヘクタールの面積で「有機養液栽培」が行われることになるか楽しみです。私もいつか経営の中で「有機養液栽培による美味しい野菜作り」に取り組んでいきたいです。

このウィンドウを閉じる